
参考文献の質
「コラム」欄の「論文執筆時のテクニック」に、「松尾ぐみの論文の書き方:英文論文の書き方」を紹介しております。この中で、「論文の質は、参考文献を見るだけで、ほぼ言い当てることができます。」と参考文献(参照文献、引用文献などとも記述されますが、以下では、一律に引用文献と記述します。)の重要性が記述され、レベルの高い国際会議やジャーナルの論文を参考文献とすべき、と述べています。
研究は学術大会で発表され、その成果として学術大会の抄録集として発行されます。学会によっては、学術大会での発表内容が優れていた場合、ジャーナルへの論文として投稿され、査読付論文として発行される場合もあります。つまり、論文は内容の進展を伴いながら、大会発表→抄録集→ジャーナル論文となって発行・公開され、最後に他の論文に引用される、といったライフサイクルを持っているといえます。その中で、引用文献として引用するならば、内容として最終形に近く、査読付きとして公正な手続きを経た国際会議の抄録集、ジャーナルの論文を引用すべき、ということを「松尾ぐみの論文の書き方:英文論文の書き方」は示していると言えます。
近年、過去に発行されたジャーナルの電子化が急速に進んでおり、また、査読付きの国際会議の抄録集、ジャーナルの論文であれば、ほとんどがWeb上で公開されているため、電子上でのリンクが可能です。このことから、引用文献のほとんどがリンクできる→参考文献の質が高い→論文として質が高い、といえることにもなります。
リンクするために
引用文献のリンクをするためには、
- 正しいスタイルで記述すること
- 正しい書誌情報で記述すること
が重要です。 このことは、冊子体での記述にとどまらず、電子上のリンクのためにも重要です。引用文献のリンクはジャーナル名、巻、号、ページ、発行年で論文を特定し、電子上のリンクを検索し取得する、または書誌情報を組み立ててリンクする(「DOIとリンクについて」参照)ために、正しい書誌情報を認識できるような記述方法で記述する必要があります。
正しいスタイルで記述する
引用文献に記述する書誌情報としては、著者名、論文タイトル、ジャーナル名、巻、号、開始ページ、発行年があります。これらの記述スタイル(書式)は投稿先のジャーナルごとに決められています。投稿するジャーナルで決められたスタイルに合わせて記述する必要があります。スタイルについての詳細は 引用文献のスタイルと記述を参照ください。
正しい書誌情報で記述する
◆ ジャーナル名
- 英語表記のジャーナル名は略語で
英語(欧文も含む)表記のジャーナル名を引用文献に記述する場合は、各単語を略語とし、ジャーナル名の略記で記述することとISO 4 standardで決められています。単語をどのような略語とするかは、ISO 4832:1994で定義されています。また、ジャーナル情報を管理し、ISSNの付与を行っているISSN International CentreでもISO 4 standardに準じて、単語と略語の対応を定義LTWA(The List of Title Word Abbreviations)し、冊子での提供とともに、オンラインで検索できるようになっています。
PubMed、ChemPortなど海外のデータベースでも略語が定義されていますが、上記ISOでの定義と同じものとなっています。また、主要なStyle Guideでの定義でもほぼ同様です。ただし、ジャーナル名の場合は略語とするのですが、Proceedingsを多く持っているIEEEのスタイルを見ると、会議名は略せないので、資料の名称全体は略さないことになっています。
日本のジャーナルのなかには、独自のルールを用いて自身のジャーナルの略記を定義し、投稿規定や冊子の表紙、各ページのランニングヘッドに表示している場合があります。単語と略語の対応にない単語を略語としてしまうケースを見受けます。このことは、海外データベースに登録されているジャーナル名とあわないために、検索に失敗し、リンクができない原因になります。
- 日本語のジャーナル名を英語で記述する場合はローマ字が・・・
多くの日本語名称を持つジャーナルは、日本語のジャーナル名と英語のジャーナル名の両方をジャーナル名として持っています。しかし、日本語名称を持つジャーナルを引用する場合は、ジャーナル名をローマ字で記述することが推奨されています。
国際的に資料を管理しているISSN International Centreでの登録は、ジャーナルの名称ごとにISSNを発行しており、ジャーナル名が複数ある場合にはそのうちのひとつをkeyタイトルとし、それを単位にISSNを発行しています。
日本語のジャーナル名を持つ場合、日本語がkeyタイトルとされ、データベースにはローマ字で登録されます。PubMedはISSN International Centreのデータを利用しており、そのほかの海外データベースでも同様です。このことから、国際的には、ローマ字のジャーナル名がジャーナル特定の項目となっていると言えます。
ただし、すべてのデータベースでそのように登録されているわけではありません。ChemPortのCASは独自判断で登録していますし、インパクトファクターを提供しているThomson Reutersでは、ジャーナルの発行者の申し出に従っていますので、ローマ字であったり、英語記述であったり、バラツキがあります。このバラツキは、リンクができるかどうかに直結しています。
- 日本語のジャーナル名を日本語で記述する場合は、略さない
日本語のジャーナル名を引用文献として記述する場合は、略さない方がリンク作成には有利です。
各分野ごとの主要なジャーナルでは広く流通した略記があったり、論文の投稿先のジャーナルの投稿規定において、そのジャーナルの略記が定義されているケースがあります。そのため、引用文献にも略語で記述されているのをよく見かけます。
電子上のリンクを機械的に行う場合は、ジャーナル名の略記でジャーナルを特定する必要があります。しかし、日本語のジャーナルの略記には、英語ジャーナルのような統一された単語の略記の方法が定義されていません。そのため、機械的な判定を行うには日本語のジャーナル名すべてを収集し、登録したデータベースを作成し、ジャーナルを特定する仕組みを作成しなければなりません。そうした仕組みがない場合には、ジャーナルが特定できずに、リンクもできないこととなります。
このことから、ジャーナル特定に確実で、リンク作成に有利な方法は、「略さず正記で記述する」ことです。
◆ 巻・号・ページ
バンクーバー方式の記述の中で、医学・生物系のジャーナルでは、巻の中でページが一意となるように巻ごとにページを付与するよう定義されています。これは、冊子発行の主体である発行者に向けてそのように定義したものですが、日本のジャーナルの場合、巻ごとでなく、号単位にページを付与しているジャーナルも見受けられます。このような場合、バンクーバー方式でも号を補って記述するようになっていますが、発行の段階で巻単位のページとなるようにする方が望ましいでしょう。
- 冊子発行の最小単位とページ
「号」は冊子発行の最小単位です。ページは冊子を作成する段階で重複したり、抜けたりしないように、確認できるものとして付されたものです。その意味から、冊子発行の最小単位である「号」ごとにページがあれば、発行者にとって不都合はありません。
その冊子が号単位にページが付されているのか、巻単位に通しページが付されているのかは、実際に印刷物を見たり、電子ジャーナル公開サイトで複数の論文を一覧として見ればわかります。しかし、データベースで検索して論文単位で見た場合や、Web上のリンクからひとつの論文だけを見た場合は判断できません。引用文献として記述する際、号を補う必要があるのか、判断できないこととなります。また、どのジャーナルが巻単位のページか、号単位のページであるのかが一覧となるようなデータベースはありません。したがって、確実にリンクするためには、引用文献を記述する著者や編集者が注意するしかありません。
多くの場合、号単位にページが付されている場合の引用記述のスタイルが投稿規程で定義されており、国際的なStyle Guideでも同様に定義されています。EndNoteなどの論文管理ツールから引用文献の記述を作成する場合にも、ジャーナルのパターンで一律に記述することはできず、個別にチェックする必要があります。
- 巻・号・ページの記述・・・使用できる文字の制限
「巻」だけでなく「号」をどのような文字として登録するかは、データベースや論文公開サイトごとにバラツキがあります。
とくにハイフンやスラッシュといった記号が巻や号に含まれている場合に、使用できる記号の制限により、置き換えられたり、省かれたりする場合があります。また、データベースや論文公開サイトによっては数字のみしか許されていないこともあります。
冊子体の表紙、表題紙、ランニングヘッド、奥付けの記述が異なっていると、データベースや論文公開サイトの作業担当者がデータ登録作業する時に、どこを見て巻・号を作成するのかが異なってしまうこともデータにバラツキが発生する原因のひとつです。
このようなバラツキが発生した場合、リンク先の書誌情報と一致しないため、引用文献の記述が「正しく」記述されているにも関わらず、リンク作成に成功するリンク先と失敗するリンク先がある、という状況が起こります。検索するツール側での工夫、検索されるデータベース側での工夫が必要といえます。 発行の段階で、記号や数字以外の文字を巻、号に使用しないのが望ましいのですが、使用していた場合には冊子発行者の側で、巻、号がリンクのための重要な項目であり、最新の注意を持って作成する必要があるという認識が求められます。これは、人の目視による確認でなく、機械的、自動的に大量に対処するという段階になっていることが背景にあります。
引用文献を記述する際の対処としては、確実にリンクしたい対象のデータベースを検索し、そこで登録されている書誌情報に合わせるか、データベースや論文公開サイトから書誌情報をダウンロードして、引用文献を作成するのが確実な方法です。引用文献のリンクを事前に確認するツールが求められます。
一方、ページについては、使用できる文字の制限により、差異がある事例はありません。
ただし、論文特定のための「開始ページ」という項目がない場合があります。科学技術振興機構のJDreamIIでは、論文と論文の関係する対象(図など)があるページをすべて記述するようになっており、連続しておらず、図版のみ飛びページにある場合など、複数のページが羅列されていることがあります。バンクーバースタイルでは、発行の段階で、こうした飛びページがないように冊子を作成することも記述されており、ジャーナル名、巻、ページ、発行年で論文特定できるようにすることが発行者に求められているといえます。
- 巻・号・ページの記述・・・誰が作成するのか
各データベースがどこを見て登録するデータを作成するのか、バラツキがあることを記述しましたが、誰が作成するのか、にもバラツキがあります。
以下に2つの主要なリンク先であるデータベースそれぞれについて記述します。
・PubMed
NLMのデータベースであるMEDLINEのインターネット版です。
発行者が論文公開サイトを持っており、電子データの預け入れができる場合、発行者が書誌情報を含んだ電子データをPubMedに送付し、登録しています。その後、PubMed側で冊子体、もしくは論文公開サイトを確認し、必要があれば修正して登録しています。
論文公開サイトがない場合、PubMed側が冊子体、論文公開サイトを確認し、作成しています。PubMedのデータは「PubMed側で判断して作成している」といえます。
・CrossRef
論文の書誌とDOIとリンク先URLの電子データを論文公開サイトの出版者やサイト運営者が預け入れています。そのため、CrossRef側での文字制限に加えて、論文公開サイト側での文字制限もある、と想定できます。
これらは、どちらも無料で論文を検索する手段を提供していますので、確実にリンクするために、事前に双方で検索することができます。